・「でも、お前もやるよな。酒が入っていたとはいえ先輩を殴るなんて」
タバコの灰を落としながら矢島は僕に目を向けて言った。
「確かに、酒が入っていた事もあったけどあの時はきっと酒を飲んでなくても殴っていたよ」
灰皿に目を落とし、落ち着いた口調で言った。
「俺には経験がない事だけどさ。失恋をして悲しんでる時に優しく接すると簡単にできるっていうよな。そこから恋人関係になったりあるいはセフレの関係が始まるんだよな」
矢島の言葉に僕は軽く頷いてタバコを消した。
「今の彼女とはうまくいってるの?」
そう言われてから僕は矢島に目を向けてから“順調だよ”と答えた。
「まだ付き合いだして間もないから今が一番楽しい時だろうな。しかも、相手にとってお前は初恋の相手なんだろう。初恋は実らないってよく言うけどさ、十数年で見事に叶った訳だ」
矢島の言葉を聞いて僕は苦笑した。そんな僕に“彼女とうして誰か紹介してくれよ”と言ってきたので“分かった”と、一言だけ言って喫煙所を出た。