彼女以外の人の気配が消えた祭壇の間。
天井から洩れ出る僅かな水滴だけが一定のリズムを刻み続けている。
シーラはその中で静かに目を閉じ、そして大きく息を吸った。
《青い風が通りすぎる
蒼い海がざわめく
碧い木々は芽吹き
空は春の訪れに輝く
雲は流れ時の流れに
消えてゆく》
「―――…唄…?」
ランスォールはハッとして顔を上げた。
知らない唄だが、この歌声は何度も聞いた。
初めて聞いたのはまだ幼い頃。
この旅を経てオーウェンや彼の生まれた小さな村でも聞いた。
聞き間違える筈のないこの歌声の主は…
「シーラ……!」
その時、一陣の風が三人の間を通り抜けた。
風が吹き抜けると、それまで彼らの行く手を妨げていた鉄の扉がゆっくりと開いた。
「開いた…?」
信じられない、と言いたげに目を見開く雪。
「罠かもな。」
「ああ。
だけどこの先にシーラがいるんだ。行こう。」
尚も歌声は響く。
まるで、神へと捧げる讃美歌のように。
まるで、死者へ捧げる鎮魂歌のように。
三人を導く唄が聞こえる。