「三時間前には、スタート地点に着けると思う。」
遼一が美穂と桃子に向かって言った。
「ちょっと早すぎない?」桃子が意見を言う。
「いや、遅い位だ。まぁ、最初のゴール地点も発表されてないし、その位に着ければいいかな。ルートで言えばIトンネルを通ってI峠の中間くらいになるね」遼一が説明する。
「Iトンネル通るの?」桃子が後部座席から身を乗り出して聞く。「何か、嫌だな…」珍しく静かに言った。
美穂は、桃子の言いたい事が分かった。その場所は、地元なら誰でも知っている有名な心霊スポットだからだ。
「あぁ、心霊スポットの事が気になるの?心配いらないよ。それは、旧道の所だから。まぁ、新道でも噂は、ちらほら聞くけど」
「遼一さんは、そういうの平気ですか?って言うか、怖いモノってあるんですか」美穂は率直に尋ねた。
「三年前までは、この世に怖いモノなんてなかったよ。今は一つだけある」
「何ですか?その一つは?」美穂は分かりきった答えを訊いた。やはり遼一の口から聞きたい。
「家族。奥さんと子供を失う事が怖い。それまでは怖いモノなんてなかった」
予想通りの答えだった。しかし美穂は、へこたれない。想うだけならいいでしょう?遼一さん、貴方が好き。
「アタシは、幽霊とかダメ…」桃子が言った。
「ワタシもちょっと苦手かなぁ、ホラー映画みたいな作り話なら平気だけど」
「心霊とか怪談なんて、ほとんど作り話だよ。もし本当に出たって、ビビる事はないよ」遼一は簡単に答える。
「だって、死んでも死にきれない様な根性無しって事だろう?怨みとか、何の関係もない人を巻き込むようなヘタレに、この不況の中で必死に生きてる俺達が負ける訳がない」
「死んでる人間が発する気より、ハツラツと生きてる人間の発する気の方が、圧倒的に強いのさ。あとは、知恵と勇気」
遼一さんが一緒に居てくれれば、ワタシは平気。美穂は遼一の横顔を見て思った。
「気…ねぇ…。何となく分かるけど…。もし、霊とかでたら、大丈夫?」
「あぁ、大概のお祓い位なら俺でもできるよ」
意外な言葉が、遼一の口から出た。