着いた。
船内アナウンスが事務的に到着した事を伝え、到着が30分遅れた事、忘れ物が無いよう呼び掛け、長旅を労い、最後に、良い旅を、と締め括った。
ロビーは降りるのを待つ人で溢れかえり、船室へ下りる階段、上る階段両方にも人の列が出来ている。
エンジン音と人の声が混ざりまるで活気溢れる市場のようだ。
待ちくたびれてスーツケースに座る老夫婦、手摺りにもたれ掛かる大学生風の男性、同行者と跳びはね歓喜の声を漏らす浅黒い肌の女の子達を順番に眺め、外界へと続く畳二畳程の扉を見ると、その横にはいつの間にか船長風の男性、船員達が立ち並んでいた。
そこで、ガーというエンジンの音が止まった。
船長の手で扉が開けられる。
弱く吹き込んだ風が、黄色く色付いているような気がした。
私の位置は先頭から20番目位、あっという間に扉をくぐる。
スーツケースを抱え階段を降りる。
するとすぐに汗ばみ南国のねっとりした空気が体に纏わり付く。
本当に、着いたんだ。
東京竹芝埠頭から25時間、小笠原諸島、父島。
距離にすると約1000キロ。
緯度はほぼ奄美大島と一緒。
地球誕生以来一度も大陸と陸続きになったことがなく、固有の動植物がいる、通称東洋のガラパゴス。