・二月に入ってから十日が過ぎた。一月は行く、二月は逃げる、三月は去ると言うが小学校を卒業するのが間近に迫っているせいだろうか?気のせいか例年より月日の流れが早く感じる。
・「もう少ししたらバレンタインデーだな」
「そうだな。後、四日か」
「昨年は加奈達がくれたけど今年はもらえそうにない気配がする」
「うん。俺もそう思う。何せ小学校最後のバレンタインデーだからな。大体が本命に渡すんじゃない」
僕は智美から来た年賀状に“チョコレートあげるね”と書かれていた事を言わず大介に調子を合わした。
「俺んちパン屋じゃん。ちょっとしたチョコのお菓子やケーキをお返しできるのにな」
そう言った後、“もちろんキャンディーも”と付け足した。
「でも、お返し目当てで貰うってのも虚しくないか?」
「そう言われるとそうだな。うん、虚しい」
どうやら僕の意見で考え方が変わったようだ。
「昨年、俺、四個貰ったけどお前いくつ貰った?もちろんかぁちゃんのはのけてだぞ」
「昨年は俺、六個貰った」
「マジで!?俺より多く貰ってたのか」
「きっと、昨年が俺の人生の中で一番貰った年になるんじゃないかな」
「そういやぁバレンタインデーの次の日、雪が降ったよな。あれお前の仕業だったのか」
大介はまじまじと僕の顔を見ながら言った。
「俺のせいにするなよ。俺なんにもしてないし」
そう言って僕は大介のランドセルを叩いた。
「でも、昨年は六個も貰ったのに今年は一つも貰えないなんて虚しいな」
石を蹴りながら大介がボソッと言った。
「優衣ちゃんは龍太郎に確実にやるだろうな」
「両想いだからな」
「加奈は誰にやるんだろうな?」
「俺のかんだけど圭吾辺りが好きなんじゃないの?」
僕が笑って言うと大介は真摯な面持ちで、
「そうかもな。リーダーシップ切って頭もよけりゃスポーツも万能だし顔もいいしな」
「天から三物もサービスされてるから俺達とは部類が違うんだよ」
小さく頷いた後、“本命からは貰えそうか?”と問うてきた。僕は顔を横に振り“可能性“0”だ”と言った。
「そっかぁ」
その後、大介は何も言わなかった。僕も“美香は誰にやるんだろう?”とぼんやり考えながら家路を辿った。