"奴"が弾くブルースは村中の人々をまるで砂糖に群がる蟻のように吸い寄せた。腰の曲がった老人から生まれて間もない赤ん坊まで、老若男女を余すことなく吸い寄せていた。さほど広くない四辻は、初めて耳にする音楽に興味津々の村人達で溢れ返っていた。無論、おれもその輪の中にいた。
演奏が終わり"奴"はギターをケースに戻し、周りを取り囲む群衆にやっと気付いた。小さな村とはいえ、四辻を取り囲むには充分な人間がそこには集まっていた。まさかの事態にびっくりした"奴"は、背筋をピンと伸ばし直立不動のまま固まってしまっていた。村人達もそれと同様に身動き一つせず、声一つ出す者さえいなかった。"奴"を改めてよくよく見た村人達は、自分達とは違った容姿を持つ"奴"の姿に息を呑んでいた。勿論、おれも少しばかり驚いた。
"奴"の肌の色は褐色で、身長は180を優に超えていた。目は大きくギョロッとした愛嬌のある目で、分厚い唇に真っ白な歯が印象的だった。おそらく、ほとんどの村人達が初めて見るであろう外国人だったのだ。当然、おれも初めてだったのは言うまでもない。