「えっ?遼一さん、お祓いとか出来るの…?」桃子がタメグチで聞いた。
「うん。出来るよ。吉原さんは出来ないの?」遼一が、あっさりと答える。
「いやいや…。普通の人は出来ないって!気を悪くしないでね、遼一さんって、ひょっとして、何かヤバい宗教の人?」桃子が聞いた。確かに聞きにくい質問だ。桃子の無邪気さが、美穂には有り難かった。
「俺は、正月に初詣に神社に行って、お彼岸には墓参りにお寺に行って、クリスマスにはケーキを食べる。まぁ、それ以外でも、しょっちゅう神社とか寺とか観光に行く。ゴスペルも嫌いじゃないよ。これは君の言うヤバい宗教?」
「ワタシも同じです…」少しホッとして美穂は言った。
「何かの宗教みたいに勧誘なんてしないから、安心していいよ」遼一が笑って言う。
「あぁ、良かったぁ…。アタシ嫌いなのよ。勧誘とかさぁ」桃子が大きな胸に手を当てて言う。
「あまり、そういうのは口に出さない方が良い。特に公共の場、人が多い所では。お説教してるんじゃないよ。年長者からの忠告と思ってね」遼一が優しく言った。
「分かってるわ。信教の自由でしょ?アタシだって、そんくらい知ってる。でも何でお祓い出来るの」
さっきから、桃子と遼一ばかり話をしている。美穂は何とか会話に入りたい。
「うん…。話せば長くなるから、簡単に言うけど…。俺は…人生、根性入れてオトシマエつけながら生きてきた。自分自身にツッパリ続けてるんだ。だけど、周りは、そうじゃなかった。みんな、<妥協と諦め>と上手に折り合いをつけている。それに気が付いたのは、高校の入学式の後くらいかな…。昔からそうだけど、簡単にカルトとか変な宗教の勧誘とかにハマってしまう人がいるのは何でだろうって思ってた。おかしいだろ?宗教なんて入った人が幸せになるもののハズなのに、やれ、寄付金集めやら壺やら印鑑やら売って回って…全然幸せそうに見えない」
信号待ちで停車して、遼一は桃子と美穂を、チラリと見て続けた。
「大学の時、ヒマだったから、本をたくさん読んだ。文学、科学、宗教、哲学、美術、武道…何でも読んだよ。そして、気が付いた。アプローチの仕方が違うだけで、究極の形は皆、どれも同じなんだなって」
「文学も武道も同じ…ですか?」美穂は遼一を見つめて言った。あぁ、遼一さんの横顔が、すぐ近くに…。
「お祓いの話は?」桃子が我慢出来ずに聞いた。