雑踏はいつだって柔らかい絹のように私を優しく包み、騒音は優秀な衛兵のように頼もしく私を守る。
白昼夢を見るようになったのは18の誕生日から。息をするのも忘れる程綺麗なものや、体が疼くような高揚感の存在を白昼夢の中で知った。そして、声も出なくなるほどの恐怖や心臓が破裂するほどの怒りも知った。
私の感情は現実世界ではなく白昼夢の中で展開される。誰にも気付かれず、分かってもらえない悲しい独唱。それが私の存在。
そんな虚しさをかき消す為に私は街をさまよう。多分初めて会って、多分もう会わない沢山の人間で形成された雑踏と騒音。最高の精神安定剤だ。
私はその中を12センチのピンヒールを履いて、長いミルクティー色の髪を派手に巻いて颯爽と通り抜ける。まるで感情なんて元々この世に存在しないという顔をして。