「ねぇ、ドール。自分が誰か解らないってどんな気持ちだと思う?」
「は?意味が…。」
「答えてよ…。」
幸は自分の手を俺の首にまわす。
そのまんま力をいれる。
「あっ…ぐ!わっかん…ねぇよ!」
「そう…。」
幸は手を俺の首から離す。
「ドール。彼にも…夜宵には記憶がないんだ。」
「え?あぁ。記憶喪失ってやつ?」
幸の眉間に皺がよった。また首をしめられそうで俺は一歩後退さった。
輝が幸を抑えるように前に立つ。
…ちょっと安心。
「失った記憶は戻らない。」
輝は混乱してる俺に優しく微笑み、続ける。
「記憶喪失の場合何かの衝撃を脳に与えれば記憶は戻る。でもそれはそこに脳があるからだ。夜宵くんの場合昔の事を記憶している部分の脳がない。」
「脳がないって…そんなの不可能だろ。後遺症とか無いみたいだし…。」
「あぁ。不可能だ。一般人にはね。もちろん無い脳が再生する事は無いし、もしその脳を見つけたとしてもまたもとに戻す事は出来ない。」
「じゃぁあいつの望みはもしかして記憶の再生とか?」
幸がめんどくさそうに答える。
「知らないよ。それに彼はこの時代でまた新しい望みを持つかもしれないでしょう?どれが彼にとって必要か見極めて決めるのは―君だ。」
なんだか俺はどうもめんどくさいことに巻き込まれたようだ。