1
金床(かなどこ)とクジラの唄を聞くと、古いものばかりを集めていきる幻惑の霧を抜け出せない私が居ることに気付いた。
2
タールの匂いがやたらと鼻について気分が悪くなった。正直に言えば吐き気を催し、倒れ込みそうで目眩がした。春の風が吹き付けて来るのに、タールの匂いが胸の中にまだ渦巻いている。
3
「フックに服の襟を引っ掛けてもらって、高く高くクレーンで吊り上げてもらうのはどうだろう」という提案は思いの外、却下される結果に至った。彼は「危険だ」という表現ではなく、「寂しすぎるから」という表し方で私に親愛の情を込めた。しかし、確かに彼の眉は曲がっていたのを私は見逃さなかった。