「良いんですか?遼一さん。彼女、人だかりの方に行きましたよ」美穂は言った。ホントは、桃子が居なくなって嬉しかった。
遼一さんと二人きり…。美穂は鼻血がでる位に興奮していた。
「仕方ないよ。俺達も少し歩こうか」
「あ、ハイ!」
二人はゆっくりと夕暮れのドライブインを歩いた。
美穂はドキドキする。会話に困ったので、駐車場にある車の名前を遼一に聞いてみる。その一台一台に遼一は答えてくれた。しかも解説付きで。遼一も自分で何かを確認しているようだった。
「スカイライン…インプレッサ…ランエボ…ああいう車がレースでは有利だね。でも…あんなに走り屋丸出しじゃ目立ち過ぎる。あらら、フェラーリやカウンタックまでいる…。あんなのは論外だ」遼一は呆れて言った。
「でもスゴい高い車なんでしょう?速くないの?」
「めちゃくちゃ速いよ。でも、それだけじゃこのレースには勝てない」
「何でですか?」
「あっちを見てごらん…」遼一がアゴをしゃくって言った。そこには、特攻服を着た暴走族の集団が陣取っていた。
改めて周りを見渡すと、集まった人間には幾つかの種類があった。走り屋と暴走族と金持ちと大勢のギャラリー。参加者に義務付けられた赤いバッチを胸に着けている者達…。
バッチを胸に着けている者達は、それ以外のギャラリーからは、特別な目で見られる。憧れや嫉妬…感情は様々だ。
「暴走族が関係あるの?」美穂は、自然と会話できていた。
「うん。あいつらは、レースでまともに勝負しようとしないだろう…。」
「あっ、スタート直後に乱闘が起きるって予想でしたね。怖いなぁ」美穂は初めて遼一と会った日の会話を思い出した。
「そう…。人間が一番怖い幽霊なんかより」
「遼一さん…。さっき車で吉原さんと霊の話してた時、一瞬、眉間にシワを寄せて恐い顔をしたでしょう?あれは何故?」
遼一は、美穂の方を振り返って立ち止まった。
「気付いてたの?」
「ええ。一瞬だったけど」あなたの事ばかり見てるのよ…。分かるわ…。
「大体、遼一さんって幽霊とか信じてるんですか?見えるの?って言うか幽霊とかホントにいるの?」
「難しい質問だな。ただ、俺は幽霊なんて見えないよ。だけど見える人には見える。その人にとっては確実に存在するんだ。要するに見る人に問題が有るって事だね」
「吉原さんにも問題が?」だから遼一さんは急に優しくなったのか…。