「よし、行こうぜ!」
耕太は美香の手を引いて入り口へと突き進んだ。二人共緊張の面持ちだった。とりあえずここでも“子供のセカイ”を開けることはわかったが、この入り口を通れるかどうかはまた別の問題だ。
二人の伸ばした手が入り口に触れるか触れないか――という、その時だった。
『足りない…っ!!』
怒りに満ちた低い声が、二人の行く手を遮った。
「なっ…!」
「今の、何!?」
耕太も美香も恐れおののいて後ずさった。声は扉の内側から聞こえた。
『代価を支払え……もっと大きな代価を……。入り口を想像するのに、こんな薄汚い靴じゃ足りない……!』
唸るように言い放った声に、二人は少し呆然となった。
「代価って……。」
「入り口を作るには、何か犠牲が必要だというの…?」
困惑した美香の言葉に、ピクリと耕太が反応した。ゆらゆらと波打つ光に照らされた精悍な顔を、静かに美香に向ける。
「オレがなる。」
「え?」
「犠牲、いるんだろ?」
美香はすぐには理解できなかった。それから、ハッとなった。
「ダメよ耕太!」
「そうするしかないだろ。オレ、さっき戦った奴の言ったことの真の意味が、今ようやくわかった。美香はここから絶対に出られないって、あいつ自信満々に言いやがったんだ。一人じゃ出られないのは、自分以外に犠牲にするものがないから。でも、二人なら……。」
耕太は美香の手を放した。ずっと握っていてすっかりしびれてしまい、手のひらの感覚がなかった。けど、それでも美香は握っていてほしいと思った。
「耕太、」
「大丈夫だ。犠牲ったって、別に死ぬわけじゃねえだろ?」
耕太は軽く笑って見せた。けど、それが強がりだということは明らかだった。膝が小刻みに震えていた。美香は唇を強く噛み締めた。犠牲、ということは、すなわちここに残るということだ。想像の元になるもの、そのものに被害はないが、それによって作られた入り口にそのものが入れるわけがない。
美香は静かに頭を振った。
「できないわ。」
「できる。」
「耕太を置いていけない。今じゃなくたってこんな所にいたらいずれ死ん――」
「美香!!」
こんなに真剣に怒鳴られたねは初めてだった。美香は思わず肩を縮めた。怖々耕太を見上げる。耕太は普段からは考えられない厳しい顔つきをしていた。