「そうか…やっぱり…」黒ジャケットの男が溜め息を吐いた。
ふふん…。なるほどね。吉原という女は母親の再婚で霊を見るようになったか…。ひょっとしたら、その新しい父親に…。シンジは推理する。
「でも、再婚した父親はすごくイイ人だって聞きましたよ。確かに思春期にはストレスかも知れないけど…。家族ができたんだから良かったとも言ってたわ。母親も喜んでたって」
「でも、その話を君にした時、母親が再婚したのが嫌だったって最初に言ったんだろ?」
「はい。確かに最初に言ってました。関係あるの?」
「ん…。これ以上は根拠のない勘繰りだ。もう、この話はやめよう。彼女にも黙っててくれないか?」
美穂は、遼一の寂し気な表情に何も言えなかった。ただ、遼一と秘密を共有した事に嬉しさと、桃子に対する後ろめたさが混じった複雑な感情に戸惑った。
「トンネルの時に、遼一さん、ワタシが変わったって言った時…。ありがとうって言ったでしょう?あれは何故?」
「ああ、あの時ね…。吉原さん、パニックを起こしかけてたんだ。心霊スポットがストレスになってね。ヤバかったよ。事故に繋がり兼ねない危険な状況だった。それを察して、わざと明るい声を出してくれただろ?嬉しかったよ」
美穂は真っ赤になってうつむいた。
「どうしたの?」遼一が心配そうに聞いた。
もう…。鋭いくせに鈍感なんだから…。でも、そういう所が好き…。
その時、隣のベンチに座っていた大男が二人の前にやって来た。赤いバッチを着けている。
遼一は何も言わずスッと立ち上がって、美穂の前に移動する。美穂を守るためだ。自然で素早い動き。美穂は緊迫した場面にもかかわらず見とれてしまった。
遼一の鋭い視線が大男を射抜く。「身長174cm 体重115kg 立ち居振舞いからすると格闘技の経験はないな」遼一が言った。美穂は、小柄な遼一の背中が一瞬、倍くらいに膨らんで見えた。
「さすが…。そこまで分かっているなら、俺に害意がないのも分かるでしょ?殺気を抑えてくれませんか?恐くて痩せそうだ」大男が言った。
「分かった…」遼一は言ったが油断はしていない。美穂は遼一の背中が元通りに見えた。
石塚シンジ、石川遼一、ギャラクシーラリーでも極めて異質な存在の二人の出会いだった。