2 傍ら痛き若人
淡矢 純。
齢23にして死を悟っていた。と言うのは,
純の体は亡き母親と同じ重い病に蝕まれていたのだ。
その事は,
吐血して初めて純自身も気が付いた。
病の進行は早く,もはや死は逃れられない。
無傷なまま死ぬ事を望んだ純は,
あえて治療をせず,
いつ訪れるやもしれぬ死をただ待ち続けるのだった。
†
純は,1人で外へ出た。
病に蝕まれてから,
1人で出歩いたのは何日ぶりだろう。
今日はよほど体調が良いらしい。
田の稲は青々と波打ち,
病で痩せた体を初夏の生暖かい風が包みこむ。
純は,足早に近所の寺へと向かった。
途中,暑さに目眩をおぼえたが,そんな事気にもとめなかった。
それよりも,
何か重大な用件が純を動かしていた。
「‥純?純なのか!?」
寺の境内に入るとすぐに住職の声が後方から聞こえた。
「住職,お久しぶりです」
純は丁寧に頭を下げた。
住職とは純が三歳の頃からの付き合いで,
母親の経もこの住職に詠んでもらった。
ここを訪ねたのは,約二年ぶりである。
「本当に,
久しぶりだなぁ。元気でやっているか?」
「‥ぇ‥っと。」
返答に困った。
自分は今元気とは言えない。しかし,
住職に心配をかける訳にはいかず,
「はい,
元気一杯ですよ!!」
嘘をついてしまった。
そんな自分に純は腹が立った。
しかし,
住職は純の今の境遇を見抜いていたらしい。
「馬鹿者‥
無理せんで良い。お前,
めっきり痩せたじゃないか。23の健康な若者ならそんなに顔色も悪くないはずだろう。
病だと言うことは誰が見たって一目でわかる。」
「馬鹿者‥ですか。」
純は,
俯いて小さく微笑んだ。
○○続く○○