『忙しいのに呼び出してごめんね』
『大丈夫だよ』
『そろそろ戻って』
『そうだね』
私達の僅かな時間が終わる
立ち上がる貴方を引き止めてしまいたくなる
貴方は『会ったら抱き締めさせて』と言っていた
だから待ってた
いつでも抱き締めてくれて構わない
他に誰もいないから
でも貴方は何もしなかった
エレベーターを待つ間
私は貴方の後ろで寂しかった
貴方の背中にそっと手を置いて『この間だけ触れさせて』と静かに撫でた
振り返る貴方は優しい顔をしていた
一階で手を振って別れた
あの言葉
抱き締めてくれなかったのはどうしてだろう
あんなに嬉しそうに笑ってくれたのに少し悲しく感じた
また明日
その言葉を残して去って行く貴方に『抱き締めてよ』と縋りたかった
本当はあの時
背中に触れた時
貴方にしがみつきたかった
でもただ会えなかった日々の距離が縮まらなくて
照れ臭くて恥ずかしくて私には勇気が出なかった
待つだけでは駄目だから
せめて私から貴方に抱き着いてみたかった
後悔を残して帰るだけ
貴方に何も出来ない自分が情けなかった