古賀はお昼過ぎに目覚めた。
 昨夜、回想に浸っていた自分を今更と気持ちを切り替え、リビングへと降りて行った。
 「あなたコーヒー?」妻の有子が問う。
 「ああ」古賀は、煙草に火を点け頷いた。
 「あなたが、いま手掛けている娘、さっきテレビに出てたわよ」
 「ああ、彼女は本当にいいものを持っていてね。この仕事を引き受けて正解だったよ」
 有子と古賀が言っているのは、いまアルバム製作中の野沢祥子のことである。
 「なんだか、今日が誕生日だとか言ってたわよ」
 「そうか」古賀の脳裏には、すでにあることが浮かんでいた。
 「はい、コーヒー」
 「ちょっと、今日は早くスタジオに行く」
 「わかりました」
 古賀は着替えを済ませ、ガレージのメルセデスに乗り込み、スタジオに直接は向かわなかった。
 3時過ぎにスタジオ入りした時、野沢祥子はいつものようにおはようございますと頭を下げた。
 古賀の手には花束が握られていた。
 「おめでとう。今日が誕生日だそうで」
 「はい」野沢の目は輝いている。「でもよく、、、」
 「まあ、気持ちだけど」 野沢は古賀から花束を受け取り、ありがとうございますと頭を下げた。