水を飲む

雨蛙  2009-05-09投稿
閲覧数[696] 良い投票[0] 悪い投票[0]




水が奏でる音を聴いている。



すべてが不均等な旋律かのようで、いや、そうでもない。



一定の間隔で刻むリズムは整った綺麗さがある。


不均等なリズムには惹きつける妖しさ、美しさがある。




水は双方を兼ね備えている。






水は素晴らしい。


なんと美しい。




『岬を一隻の船が発つ』







触れてみても指の間をすり抜け、それはまるで高嶺の花のよう。


水は私に情けをかけて、ひんやりと偽りの接吻を与える。








水に触れたい。



ふとそう感じる時がないだろうか。






水に愛されたい。



水に恋焦がれたことはないだろうか。







私はただの汚れ。


洗い流してもらいたい。


ああ、水に触れていたい。





丸裸で生まれた私に、
澄みきった生まれたての私に、
汚れを知らなかった私に、
汚れる前の私に、




洗い、流して欲しい。










『湖上の船はゆらりゆらり』









私はすべてを水にささげた。



するとどうだろう。







水は身体を包んでくれた。



水が私を受け入れてくれた。








『その船に人影はない』











私は許されたのだろうか。



貴女に近付くことを。









ただ情けをかけて、私を抱いてくれたのだろう。



貴女は本当に優しい。










『湖面に水の波紋が揺らぐ』




『やがて鎮まり』





『陽が昇る』









浸かった身体、
膨れた身体、
濡れた身体、
冷えた身体。




湖の端に上がる一つの入水死体。









水は汚れた身体を洗い流して、魂だけをつれていく。








嗚呼、なんと素晴らしい。




i-mobile
i-mobile

投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 雨蛙 」さんの小説

もっと見る

ミステリの新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ