彼女は僕に言った。
「あなた、誰?」
何秒か、時間差で僕が口を開く。
「その墓に入ってる人たちの子供。名前は利輝(トシキ)。」
それは二週間ぶりに話した僕の声だった。
「そう、あなたがトシキ…。私は、あなたの元嫁の子よ」
時間だけが優しく過ぎる。
風は彼女の髪毛を激しく揺らす。
「父の…」
「そう。あの人私を見捨てて出て行ったの。そして、身勝手に死んだ。」
彼女の声は少し震えているように感じた。
「あの人が出ていったあと、すぐに母は命を断ったわ。」
「…ごめん」
それは自然に出てきた言葉。
「何故あなたが謝るの?」
彼女の声はあたたかく、時のように優しかった。
「わからない。けど、ごめん」
「あなたは優しいのね。」
僕には、彼女のほうが優しく感じられた。
「私の名前は斎藤 野々香(ノノカ)。あなたと名字は同じよ。」
そう言って墓に刻んである字を見た。
「歳は18」
「僕は15」
彼女は、知ってる、と言いほほ笑んだ。