2-2 傍ら痛き若人
「懐かしいなぁ,昔,
寺の看板に落書きして,馬鹿者!!って住職に怒られたっけ‥。
その時は凄い勢いで怒鳴られて,
私は怖くて子犬のように震えていたなぁ。」
と,純は,震える素振りをしてみせた。
住職は,
そんな純につられてつい笑ってしまったが,
すぐにまた深刻な顔に戻った。
「こら,
話をそらすんじゃない。一体,どんな病なんだ。治るのか?」
「困るなぁ。」
と純は目を丸くし,
「仕事柄,
死人の顔見慣れているんだから,何となく察しはつくんでしょう?」
と,病人らしからぬ軽口をたたいた。
しかし,住職にはそれが軽口と受け止めるには難しかった。
勿論,純の言う[察し]はついていたのだ。
病の重さ。
そして,
もう余命は長くはないと言うことも。
だが信じたくなかった。
純が自分よりも先に死ぬと言う事も全てが幻にしか思えない。
住職の中で純は,永遠に子供なのだ。
「‥長くないんだろう?」
単刀直入に言った。
言葉を探す余裕はもはや住職には無かった。
純は,
一瞬おもいつめたような表情を見せたが,
すぐにいつもの微笑みに変わった。
「‥はい。」
「‥そう‥か。」
純の真っ直ぐな澄んだ目は,
既に死を覚悟している。
その目に住職は圧倒された。
「だから,今日,
ここへ来てから少しためらったけど,お願いしに来たんですよ。」
「お願い?」
「私の葬儀で住職に経をよんで頂きたいと。」
一瞬住職の時が止まる。
「縁起の悪い事を言うんじゃない!!」
我に帰った住職は,
思わず,大きな声をあげた。
○○続く○○