美香は“子供のセカイ”に踏み込むと、すぐ気を失った。
目の眩むような強烈な白い光、ドンッと体を突き抜けた衝撃に耐えきれず、思わず意識を手放してしまったのだ。
背中の柔らかい感触にふっと気づいて目を開けると、目の前にはしわしわの老婆の顔があった。
「…っ!」
思わず腕で顔を隠すと、老婆はカラカラと笑ながら身を引いた。
「そんな風にせんでも大丈夫じゃ。なーんもしやせんで、安心しい。」
「ここは…!?」
「“子供のセカイ”じゃ。」
美香が呆然としている内に、老婆はよっこらと立ち上がって部屋の奥へ行ってしまった。美香はようやく、自分が木造のわびしい小屋にいること、染みだらけのシーツのふとんに寝かされていることに気づいた。
しかし、意味がわからない。老婆のあまりにもあっさりとした態度が、かえって美香を不安にさせた。ここは本当に“子供のセカイ”なのだろうか――?
「あ、あの……。」
「ちょっと黙っとりなさい。アンタ、傷だらけじゃて、傷に響く。」
そう言われてみて、初めて美香は体のあちこちがピリピリと痛むのを感じた。擦り傷をたくさん作ってしまったようだ。美香はシーツに血がついてしまっているのを見て、慌ててふとんから退いた。
「ごめんなさい!」
「気にせんでええ、ええから寝とれ。」
そして案外力強い老婆の手でまたふとんに戻されてしまった。
美香は少しぼうっとして、老婆が桶で手拭いの水をしぼるのを見ていたが、やがてハッとなった。
「おばあさん!!」
老婆の肩にしがみついて美香は叫んだ。急に言い知れぬ恐怖に襲われた。
「ここは本当に“子供のセカイ”なの!?」
「あ、ああ、そうじゃが……。」
「じゃあここから“闇の小道”に行ける?耕太を助けられる!?」
長い髪を振り乱して叫んだ美香に、老婆はあ然としてしまった。
「落ち着きんさい。一体どうしたんじゃ?」
美香は唇を震わせるばかりで、説明どころではなかった。耕太は一体どうなったんだろう。私はどのくらい気を失っていたの?耕太はどのくらい闇の中で一人ぼっちでいるの?食べ物も水もなく、光さえないあの場所で……。
「わ、私…っ!」
手拭いを持つと、ボロボロと泣き崩れた美香の手を取り、老婆は優しい手つきで傷口をぬぐっていった。美香はしゃくりあげながら、されるがままになっていた。