勇一からの電話を終了後、再び嶋野の携帯が鳴った。
同僚の森田紀子からだった。
「もしもし?」
「あー、嶋野さん?森田です。今どこですか?」
「え?どうかしたの?」
「いえ、嶋野さん休み取る前に、かなり残業して、休み分の仕事してたじゃないですか?ちょっと心配だったんで…あと、私もこっちに用があって…」
「こっちに用?もしかして東京に来てるの?」
「そうです。嶋野さんもそうですよねぇ?」
「ああ。探している人がいたんだけどね…見つかったよ。まあ、いろいろとあるんだけどね…」
「いろいろと?」
「うん。まあ、身内のことでね。」
「身内?あまり聞かない方がいいですか?」
「落ち着いたら話すよ。それより森田さんは?」
「私も探している人がいて、東京に来てるんですよ。場所はなんとなく解るんですが…」
「そう…俺は今○○ってところにいるよ」
「近いですね。私実家がこっちなんですよ」
紀子は2年前に、嶋野の会社に入社してきた。
親戚が、会社の上司にいたため、いわゆる、コネ的な形だが、仕事は一生懸命やっていた。
嶋野は、何度か昔東京に居たもの同士で話したことはあるものの、何故、北海道に来たかという、本当の理由は、お互い言ったことはなかった。
「嶋野さん、私の叔父がね、嶋野さんの上司に掛け合ってくれてね。嶋野さんもう1日帰りを伸ばしてくれって。」
「はい?それって命令?」
「形的には…ごめんなさい。協力してほしいです。」
紀子のプライベート的な事とはいえ、上司命令とあれば、協力せざるを得ないが、紀子の探している人とゆうのも気になっていた。
「あの…嶋野さん、私ね、探している人って、私の昔の仕事に関係あるんですよ」
「昔の仕事?」
「ええ…。私自分が何の仕事をしてたかって、今の会社の人に話したことないんです。…いろいろあって。これから会えますか?」
「これから?…わかった。」
「ありがとうございます。じゃあ、隣の駅の○○で」
「わかった。じゃあ、後で…」
電話を切った嶋野は、紀子の指定した場所へ向かった。
この嶋野と紀子の行動が、勇一と、さまよっていた女の未来を切り開くことになるとは、2人は知る由もなかった。