美穂の問いかけに最初に答えたのはシンジだった。
「オレはクリーニング屋の三男坊さ」
美穂は遼一を見た。
「俺は、健康優良不良少年だな。もっとも、もう中年だし、今は健康でもないから、元が付くね。ただの不良中年だ」
「分かりました」美穂は素直に引き下がった。
「時間がない。ここで一旦別れよう。俺はカンちゃんと二人で、デマを流す。シンジ君は兄さん達と合流して別ルートで噂を広めてくれ。連絡は携帯に頼む」
「はい。オレの番号はこれです」お互いに携帯番号を交換して、遼一達はシンジと別れた。
「まずは吉原さんを探さなきゃ…。急ごう!」
遼一は、美穂の手をとって走り出した。
ちょっと…。遼一さんと手を繋いじゃってるわ…ワタシってば。どうしよう…。まぁ、遼一さんが気付いて手を離すまで、このままでいよう。
しばらく走って、二人は手を離した。
「吉原さん、見つかりませんね」息を弾ませて美穂が言った。
「あれだけ目立つ娘だからすぐ見つかるよ。ただ、シンジ君達が作戦を遂行してるはずだから、急いで見つけないと危険だ。目立ちたくないから、人に聞くわけにもいかない。こっちも噂を広めないと…」
「携帯も電源切ってるし…。全く…個人プレーで迷惑するパターンですね」
その頃、吉原桃子は、ギャラリーの男達と盛り上がっていた。
「何それ?マジ、ウケるんだけど」
「ああ、アレね超クールだよね」
男達は、桃子の機嫌を取るためか色々な話題を提供している。
「ええ?そうなんだぁ」桃子は相槌を打つ。
そうだ。コレだ。コレが心地良い。男は皆、アタシに気に入られたいのよ…。ああ気持ち良い。
「ねぇねぇ、オレ達、車なんだけど、さっき言ってたミュージシャンの歌を聴きにいこうぜ。スピーカーとかマジすげぇから、ズンズン頭からシビレるって。車に行かねぇ?」
「でもアタシ参加者だしぃ。色々準備とかあるのよねぇ」簡単に車なんかに行くわけないでしょ。バカね…。
「マジでいこうぜ…」しつこく茶髪のチャラ男が言う。
どうやって断ろうか…。桃子が考えていると、すぐ近くでデブ三人が話をしていた。このI峠に出る幽霊の話だった。
チャラ男が髪を触りながら言った。「この峠ってマジでヤバいよね…この前オレのダチの兄貴の先輩が見たって」
そこにいた連中が次々に心霊話を始めた。
「…だから、金持ちが悪いんだって」デブの声が響いた。