「そういえば、この峠、北に行った所に超金持ちの家とかあったよな。何か大企業とか政治家の家系でさぁ」金髪のチャラ男が言った。
「金持ちなんてロクなもんじゃねぇって!貧乏人から金まきあげて、自分達だけぬくぬくと生きやがって」茶髪の男が言った。大して地元の富豪の情報を知っているわけではないが、桃子の気を引きたい一心で適当な事を並べ立てる。
「金持ち超ウゼぇ。ぶっ殺してぇ」そんな声が次々とあがる。
「あいつらだって似たようなもんじゃね?」茶髪がフェラーリ等の外車の方を見た。
その声は暴走族にも走り屋にも届いている。
走り屋は、自分の趣味の為に稼ぎを車につぎ込み、いつも金欠だった。欲しいパーツは山ほどある。ガソリンも高いし。それでも毎日、テクを磨いているのだ。あんな外車反則だぜ。暴走族なんざ目じゃない。俺たちは命懸けで走ってるんだ。
暴走族は走り屋が嫌いだ。やってる事は、奴等と変わらないのに、自分達ばかり槍玉にあげられる。そのくせ、暴走族とは違う。ポリシーがある。などとほざく。なんぼのもんじゃい。
世間からみれば、両者とも五十歩百歩だ。迷惑この上ない。しかし、両者の溝は埋まることはなさそうだ。
レース会場のドライブインは異様な雰囲気に包まれる。金持ちへの嫉妬や心霊スポットのストレスが、マイナスベクトルのエネルギーとなって収斂していく。
虫眼鏡で太陽光を集めるように徐々に強い力となっていく。
桃子は、だんだん怖くなって来た。遼一達と合流しなくては。
「アタシもう行かなきゃ…楽しかったわ。じゃあね」
茶髪が大声で叫んだ。「じゃあね、じゃねぇんだよ!お高くとまりやがって!サッサと来いや、このアマ」
茶髪が桃子の腕を掴んで引っ張る。
「嫌!やめて!」桃子は、叫ぼうとしたが声が出ない。
アタシ拐われる!誰か助けて!カンちゃん、遼一さん!あぁ、こうならないように遼一さんは、アタシに目立つなって言ってたのね。
桃子は、後悔した。
スタート時間10分前だと何故か冷静な自分が知らせた。そして叫んだ。桃子の叫び声が峠に響いた。