海に流されたカワウソは、サメでもいいから会いに来てはくれないかと思います。
こうして唯々諾々と漂っているよりも、サメの血肉になって他の生命を生かす要因になることの方が、まだしも有意義な存在ではなかろうかと考えます。
海に流されたカワウソは、そうして夢を見るのです。
自分が何かにとって不可欠な存在となることを。
けれどもサメは、カワウソをカワウソだとは思いません。
波のまにまに唯々として、無為に漂う食べ物だとしか思いません。
そうしてサメは今日もまた、海に漂うだけのカワウソを、食べて生きながらえるのです。
海に漂うカワウソを、食べたサメはそしてまた、ながらえた命を持て余し、虚しい海をあてどなく、泳いで泳ぎつづけるのです。
肉を喰らうサメなどを、温かく迎える者は海に全くいないのですから。
そうして今日もサメはまた、泳ぎ泳いで泳ぎつづけます。