スタート直前の緊張感に加え、暴走族と走り屋のパワーバランスが極限にまで高まって均衡したドライブインに女の悲鳴が響いた。
全くレースとは関係ない無責任なギャラリーが騒ぎ出す。
ギャラリーの一部から声があがった。
「高い車に乗ってるからって調子こいてんじゃねぇよ!」
「そうだ!なめんじゃねぇ」
「ぶっ壊してやんよ!」
ポルシェのドライバーが女を助けようと声をあげた。
「おい、その娘どうする気だ?嫌がってるじゃないか。放してやれよ」
「うるせぇんだよ!金持ちのボンボンが!」ギャラリーの一人がポルシェに蹴りを入れた。
指紋さえつけるのをはばかられる高級車三台が並んで停まっていた。午前中からモーターショーのように見せびらかすように駐車していたのだ。蹴りを入れられたポルシェはその内の一台だった。
次々とギャラリーがポルシェに襲いかかる。
近くにいた走り屋の一人が大声で叫んだ。走り屋の中でも、一目置かれる零次という男だった。
「やめろ!お前ら何やってんだ!」零次は、金持ちがどうなろうと知った事ではなかったが、目の前で夢の高級車が破壊されていくのは見ていられなかった。
走り屋が集まってギャラリーの一部と揉め始めると、動き出したグループがいた。暴走族だ。
「てめえら、調子こいてんじゃねぇぞ、あぁ!?」
「なんだよ、お前ら!」
「うるせぇ殺すぞコラ」
あちこちで怒号が響いた。
破壊音。怒鳴り声。悲鳴。
乱闘が始まった。
桃子は、チャラ男達に囲まれて連れ去られそうになっていた。
「ちょっと、やめて!放してよ」桃子が叫んだ。
「うぉ、たまんねぇ、この乳!爆乳じゃん」
「ギャハハ。お前、相変わらず巨乳好きだな。サッサと車に連れ込もうぜ」金髪と茶髪が大声で喋っていた。
桃子は青ざめた。誰か助けて…。
そう思った時、金髪が宙に舞った。何が起こったのか、桃子には分からなかった。金髪が吹っ飛んでゴロゴロと転がる。
「何だ?コラ!」茶髪が叫び飛びかかる。そして吹っ飛んだ。桃子は呆然と立ちすくむ。石塚クリーニングの長兄、英彦が張り手の格好で立っていた。
「可愛い娘に何すんだ!」英彦が叫んだ。
「吉原さんですね?遼一さんに頼まれました。車に急ぎましょう」シンジが要件だけを的確に言った。
三人の巨漢に守られながら、桃子は乱闘の中を進んだ。