吉原桃子は、何がなんだかわからなかった。とにかくヤバい場面を三人のデブに助けられたのは、確かなようだ。頼まれました？遼一さん？
｢遼一さんって、あの遼一さん？｣
｢そうだよ。黒いジャケットの人｣シンジは断片的な情報を桃子に与える。視覚的な情報ほど有効だ。
ヒステリーを起こしている女を現実に引き戻さなければ。
ドライブインはパニックになっていた。
次々に襲いかかってくる男達を英彦が迫力で圧倒する。英彦の巨体が闇に踊る。
｢あなた達は味方なの？｣
桃子がシンジに尋ねた。
｢うん。安心して。もう大丈夫だよ｣シンジは出来るだけ優しい声で言った。
よし。良い子だ。ヒステリーを起こすなよ…。シンジは辺りを見回して、最短ルートを計算した。
｢ヒカ兄！左だ！｣シンジが叫んだ。
ヒカルは自分の左側から襲いかかる男に向かって叫んだ。｢おい！お前そこから離れろ｣
男は戸惑いながらもヒカルに殴りかかってきた。
桃子が手で目を覆う。アタシを助けてくれた人が殴られる！
｢ぐぁっ｣呻き声が上がった。桃子は、恐る恐る目を開けた。そこには、さっきヒカルに殴りかかってきた男がうずくまっていた。
あれ？何で？桃子は思った。
｢だから言ったのに…。すげえパンチ…。すまねえな、助かったよ。アンタ｣ヒカルが、傍に立っていた男に声をかけた。
｢余計なお世話だったかな？その体なら余裕で勝てただろう｣男が言った。周りに気を配る。油断はしていない。
｢いや、基本的にケンカに向いてないんだ。草食動物だから｣ヒカルが言った。
いやいや、こんだけ太ったベジタリアンはいないだろう。桃子は心の中でツッコミを入れた。
｢もう行かなきゃ。吉原さん、落ち着いたみたいだね。このまま進むよ｣シンジが言った。
｢ありがとう…。あの、あなたも…｣桃子はヒカルを助けた男にも声をかけた。
｢いいって…。気をつけて｣そう言って男は、また乱闘に加わっていった。乱闘を止めてるようだった。
桃子は、爽やかな男の顔に見覚えがあった。誰だっけ…。
乱闘は激しさを増していった。暴走族と走り屋がお互いに潰しあい、ギャラリーも巻き込んで戦場のようだった。
｢やめろ！みんな落ち着け！｣爽やか男が叫んでいた。その声を遠くで聞きながら、桃子は声に出して思わず言った。
｢思い出した！さっきの人、タレントのケインだわ！｣
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