「みんな、やめろ!やめるんだ!」ケインが精一杯の声で叫んだ。
しかし、乱闘は激しさを増す一方だった。
これが、俺の愛する、平和な国の姿か?
暴力と破壊。ケインが誇りに思う国の裏の姿が目の前にあった。何だ?コレは。なんなんだ!?
「スカしてんじゃねえぞ、この偽善者がぁ!」若い男がケインに襲いかかる。
ケインの左の頬に痛みが走った。
ケインは、男を睨み返す。男が再び殴りかかってきた。しかしその拳は空振りだった。
ケインの怒りの鉄拳が炸裂する。
違う…。俺の愛する国はこんな所じゃなかったはずだ。次々に殴りかかってくる男達をケインは倒していった。ケインは、涙を流して闘った。
アクションが好きだ。勧善懲悪の物語が好きだ。しかし、目の前で乱闘しているのは、悪の秘密結社でも何でもない只の若者達だ。俺のやりたい事はこんな事じゃない。愛する者がいれば…夢があれば…こんなバカげた事はやらないはずだ。
ケインは、まだ若かった。
「ケイン!大丈夫か?」
「ワキタ君!ショージ君!」
「俺は平気。二人とも怪我はない?」
「ああ。なんとかな。とにかく車に戻ろう」ワキタが言った。
「この騒ぎを治められないかな?」ケインが言った。
「もう、無理だよ。みんな、何かにとり憑かれたみたいに殺気だってる。この峠は心霊スポットらしい」ショージが言った。腕にアザができている。
「なんとかしてやめさせたい!」喋っている間にも、また男が襲ってきた。ケインは男を蹴りで倒す。
痛みは恨みを生み、恨みは報復を生む。憎しみの連鎖が爆発的に拡がる。愛する国の若者は今、テレビで観る暴徒に変わっていた。平和なこの国の田舎町で暴力が行使されている。
力に力で対抗しても、反発が大きくなるだけだ。
暴力に対抗するのは武力?正義を重んじる武道?武道なら父親に叩き込まれてきた。親父は何と言っていたっけ…。
<いいかケイン…。強くなれ。強くなって誰よりも優しい男になれ。強さは愛の力に比例する>父親の言葉が胸に甦る。
「愛だ!!」ケインが叫んだ時、どこかのスピーカーから音楽が流れてきた。
ケイン達は、音楽の流れている方を見た。三人の女が歌っている。
クミ、アユミ、ナミエの三人だった。
三人の歌姫は、愛を歌っていた…。
時刻は、ギャラクシーラリーのスタート時間の午後8時ジャストだった。