「お待たせ」
「すいません。急に誘ったりして。迷惑でした?」
由美の死と、その由美からの手紙で、落ち込んでいるとはいえ、職場の仲間である和枝の誘いを断るわけにもいかず、複雑な心境だったが、和枝の明るさに、少し救われた。
「昨日は悪かったね。2日連続で誘ってもらって嬉しいよ。で、どうする?」
「あっ、特に考えてませんけど、せっかくだから、一緒に飲みませんか?荒木さんと飲むの、昔のお店以来じゃないですか。少し語り合いたいし…」
と言うのは口実であり、勇一にある程度、自分の思いを伝えられればと、和枝は考えていた。
「いいよ。昨日のこともあるし、居酒屋だけど、俺におごらせてよ」
「え?そんないいですよ。誘ったの私ですよ」
「まあ、それくらい先輩の俺にかっこつけさせてよ」
「すいません…」
和枝は、勇一の優しさに感謝しながらも、勇一が気を使ってくれていることに、少しもどかしさを感じていた。
「あの…」
「ん?何?」
「いえ、なんでもないです!とにかく飲みましょう!」
勇一は、なんとなく和枝の思いを察したが、消極的な自分に情けなさを感じていた。
…二時間後、かなり酔った和枝が、勇一に言った。
「荒…あーらーきさん!」
「ん!なに?」
「私ね…私好きな人がいるんです」
「うん」
「でも…でも、その人は、私が私なりにアタックしても、気づいてくれないんですよ」
「そうか。鈍いんだな。その人」
ーあんたのことだよ!ーと思いつつも、「ありがとうございまーす」と言って和枝は、パタッと寝込んでしまった。
「参ったなあ…」
送るにも、和枝の自宅も知らない。
ちょっと、下心がある男なら、と思うが、勇一の今の心境は、そうはいかなかった。
佐野に連絡を取った。
「ああ、佐野さん?申し訳ないんだけど…」
佐野に事情を話し、佐野は了承した。
和枝を送った後、勇一は少し反省していた。
由美のことで、ずっと恋愛に心を閉ざしていた自分に。
だが、今日はともかく、明日2通目の手紙を読むことと、嶋野に会うことで、少しでも氷解出来ればと思った