まず段差を恐れるようになった。そして恐れるだけでなく実際に登る事ができなくなっていた。それから手の震えが酷くなった。気付くとおばちゃんは介護を必要としていた。そしてすぐに家にいることさえ不可能になった。近くの病院に入院するまでに時間はかからなかった。あまりお見舞いには行ってあげられなかった。今考えるとあたし一人だけでもいいから頻繁に行ってあげればよかったなって思う。そしたりあの優しい笑顔だってたくさん見れたのにって思ってしまう。
電話が切れてもあたしはなかなか寝付けずにいた。夜が明けた。その日は学校が調理実習だったから材料を持ってかないとって思って学校へ行った。朝の短学活中だった。担任が近くにきて深刻そうな顔付きで「今、お母さんから…」それだけを聞いてもう分かった。おばちゃんの死。九十歳だし自然な事だろうと思った。あたしは「帰ります」そう告げて調理実習の道具を友達に渡した。そして父の車がまつ校門まで走った。父と母は別れた訳だが不倫とかが理由じゃないから二人の仲が悪くなることはなかった。あたしからするとそれがすごく悔しかったんだけど。
この後あたしは頭で理解するより実感する事の違いを知るんだ。