<石塚クリーニング 自家用>とネームの入った白いステップワゴンと白いイストの間に四人の人間がいた。
石塚クリーニングの三人のデブと吉原桃子が、つい先程までいた乱闘の中心地を見ていた。乱闘はまだ続いている。
よく脱出できたものだ、と桃子は思った。三人のデブが現れなかったら、今頃自分は…。想像しただけでゾッとした。
「こんな事になるなんて…」桃子は寒そうに自分の肘を抱いた。
大きな胸が、さらに強調される。谷間がグランドキャニオンだ。
チラチラと英彦とヒカルがお互いの目と桃子のグランドキャニオンを見ていた。
「遼一さんは、こうなると予想していた事を君に話さなかったの?」シンジが桃子に訊いた。
「いや…。レースの事を話した後で、すぐ言われた…。3分もしないうちに」
3分か…。なかなかだな。シンジは思った。
「でも、現実になるなんて…。アタシ怖かった。ありがとう」桃子は三人のデブに改めて礼を言った。
「いやぁ、当然の事をしただけだよ!」英彦とヒカルが同時に言った。
「遼一さん…カンちゃん…大丈夫かなぁ。アタシにはシンジ君達みたいに超強い人が一緒にいてくれたけど…。それにケインも」
「あの二人なら大丈夫だよ。カンちゃんが遼一さんの言う通りに動いてくれれば、更に確率は高くなる」シンジが言う。
「カンちゃんなら、遼一さんの言う事は何でも聞くと思うけど…。何でそれなら大丈夫なの?」
「遼一さんの邪魔にならないから。彼が自由に動けるなら、あんな烏合の衆なんか目じゃないよ」
「だけど、遼一さんって…あなた達みたいに大きくないし…っていうか、小柄だし。やっぱり心配よ」
「…吉原さん。戦闘力で言えば、遼一さんは英彦兄より上だよ」
「えっ英ちゃんより上!?ウソ!有り得ないって。英ちゃん、アタシが見てきたどんな人より強かったのよ?」
「戦闘力ってのは、単純な腕力だけじゃないって事さ…。遼一さん、黒い服着てたし」
「はぁ?黒い服?」
「ひょっとしたら、彼は黒っぽい服ばかり着てるんじゃないかなぁ」
「何で知ってるの?あぁ、前から知り合いなのね」
「遼一さんと初めて会ったのは数時間前だよ」
「ウソ…。遼一さん黒っぽい服ばかりだって…。便利だからって…何なの?」
「暗闇では見えにくいんだよ。ケンカに慣れてる証拠。常に修羅場を<覚悟>してる証拠」