桃子はシンジの言葉を繰り返した。「覚悟…」何となく分かる気がした。カンちゃんは、遼一のそんな所に惹かれたのか…。
さっきまでいた乱闘の中心地から音楽が聞こえてきた。聴いたことのないメロディだった。女が三人で歌っているようだ。よく見えない。
その三人が、この国のトップミュージシャンのクミ、アユミ、ナミエだとは桃子もデブ三人も気が付かなかった。
「あんな所であんな状況でストリートパフォーマンス?危ないわね」桃子が言った。
「ひょっとしたら…。乱闘を止めようとしてるのかも知れない…」シンジが呟いた。
「あっ!カンちゃん、遼一さん!良かった。無事だったのね」自分たちのいる方に走ってくる二人を見付けて桃子が叫んだ。
「よし!あとは…」シンジが車を見て言った。
「シンジ君!こっちは無事だ。吉原さんの事、ありがとう。二人がお兄さんだね」英彦とヒカルを見て言った。
「遼一です。こっちはカンちゃん。シンジ君!」
「はい。続きは携帯で!ヒデ兄、ヒカ兄、車に乗れ。早く!」
英彦とヒカルはシンジの迫力に押されて車に乗った。英彦は桃子に手を振った。ヒカルは美穂の方を見ながら巨体を車にねじ込んだ。
「さあ、俺達も急ごう。乗って!」遼一が言った。
「どうしたの?せっかく無事に脱出できたのにぃ…。ここまで離れていれば大丈夫でしょう?」桃子が言った。
「違う!レースだよ!スタート時間過ぎてる!」遼一は桃子が車に乗ったのを確認しながらエンジンをかけた。美穂はすでにシートベルトをして待っていた。
遼一は慎重に目立たないようにゆっくりとドライブインを出た。シンジの車は既に出ている。ここで焦ってタイヤを鳴らすようではダメだ…。落ち着け…。シンジ君は、そうしている。さすがだ。
遼一は車のパネルの時計をみた。20:03を示している。
「カンちゃん、イヤホンマイクを着けてくれ、そこにある!吉原さんシートベルトして!」遼一は携帯を美穂に渡した。
「ふう…吉原さん大丈夫?怪我とかない?」バックミラーで桃子を見て遼一が言った。
「うん。ありがとう。シンジ君達にアタシを守るように頼んでくれてたんでしょう?ヤバかったけど大丈夫よ」
「良かった。探したんだけど見つからなくて…ごめん」
「いや、個人行動とったアタシも悪い。ごめんなさい」桃子は素直に謝った。