「アッシェン。聞いてる?」
私ははっと顔を上げた。小柄な金髪の少年が私を見つめている。
「ああ…ごめん、フェンリ。聞いてなかった。南何の話?」
「だーかーら、リヒネの襲撃のことだよ」
フェンリはぶすっとして答えた。子供っぽい表情が何ともかわいらしい。
「リヒネか…」
リヒネとは、南部の山岳地帯にある内陸都市で、街全体が城塞に覆われた要塞都市だ。その地形の利をいかし、今は犯罪者の収容施設として使われている。
「アリスを助けなきゃ。きっと待ってるよ、僕らを」
「…うん」
アリスは、私たちの幼なじみで、姉のような存在だ。彼女は、言われのない罪を着せられ、一月前に収監されている。
心優しく美しい彼女は、皆に慕われていた。
「フェンリ、アッシェン。いいか?」
円卓の奥の席に座っていた中年の男が口を開いた。