今朝

 2009-05-18投稿
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昨日の晩から今朝にかけて、私は目を覚ましたままである。
これといった事件があったでもなく眠れないというのは初めてのことであった。そもそも私は役所勤めをし始めた当初から変わらず、ずっと規則正しい生活を続けているのだから些事の域を出ない変事が起きたとても、早々ルーティンに変調をきたすはずがない。従って、とにかく眠れないこと自体が大事故と呼ぶに相応しい出来事と呼ぶのが正しいところだろう。
無性に海が見たくなった。
庭先で数羽の雀が跳ねては小石か何かをついばんでいる。陽光の注ぐ土の上は、普段見るよりも神々しく私の目には映った。海の深い青色も違って見えるのだろうか。そう考えたら、今日が休日であることも相まって、至極当然たる流れを以って、私は家の鍵を締めていた。
人気の少ない駅から、同じように人気の少ない電車に乗る。
いざ着いてしまうと、想像していたよりも地味ではあったが、安らかな色をした海原がそこにあった。白波が岸に寄せては返すものの、穏やかである以外にこれといった変哲は見受けられない。私はしかし、それから目を離さない。
東から昇った陽が、気付いたときにはてっぺんにまで昇りきっていた。見上げると、この頃に強くなった陽を瞳孔にまともに受けて、私は思わず息を呑んだ。いつの間にか、波打ち際も遠くにあって、変な居心地の悪さを感じた。過去の私と同じ歳をした高校生を見かけたような、少し寂しい感覚だった。鼻孔をくすぐる潮の匂いはどこまでも一途に私の胸を締め付けた。或いは、潮が去ったのでなしに、私が離れたのでないかという疑念が脳裏をよぎった。 砂を一握、立ち上がり、離れてしまった波に向けて投げつけた。音も含めてそね全てを海が飲み込むのを確認すると背を向けて、私は元来た道を逆に辿って自宅に戻った。
またやって来るであろう今朝を浮かべながら目を閉じるに、自然、心地よい眠りに落ちた。



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