こうして一星期に及ぶ大戦期は終結し、新しい時代が始まろうとしていた。
人類総会は、一千億同胞達に新たなる目標を示さねばならなかった。
さもなくば、テクノクライシスや最終聖戦思想の再来を招きかねない―人々の脳裏には、そんな危機感が色濃くこびり付いていた。
少なくとも最大多数の欲望を満たし、幸福を与え、それに外れるのに罪悪感を伴わせるだけの正当性を備えた大義名文が必要だった。
しかもそれは、中央域文明圏を軸としたまとまりを保つ物でなければならない。
科学技術分野に異端が跋扈するのを妨げるには文化・価値観上の統一性は是非とも必要だったからだ。
人類総会・宗教界は一致して、全ての人類に遠宇宙への植民・特に惑星開発を促し、これを大目標とする事を決定した。
それを行うだけの材料は揃っていた―エントレンスの発見と星間軌道公社の急速な発展だ。
地球型の惑星を可住化させ、そこに人々が根を下ろす―かつては手間と危険の大きさから忌避されて来た《正攻法》は、今や中央域の主流であり、一度は否定された集権型宙邦の星民統制策から取り入れられた《遺産》でもあった。
人類は地球で産まれ、宇宙で育ち、そして再び大地に下り立たん!
そんなキャッチフレーズが繰り返され、恒星間植民・惑星開発《テラフォーミング》の流れは加速されて行った。
それは、中央域文明圏の継続的な拡大を意味した。
もう一つ、人類総会体制が最重要とした事は、権力の集中・もしくは集中した権力の誕生を未然の内に潰すべし、と言う哲学であった。
権力の過度の一本化こそが、際限無き宙邦独裁と国家間競争を産み出し、やがてそれが大戦にまで繋がった―少なくともこの時代の人々はそう考え、考えただけではなく具体的に防ごうとしていたのだ。
三つ以上の星系・十億以上の人口・諸国GDP合計比で三%を越える勢力は強制的に分割され、次々と新しい国が誕生する温床となった。
所謂《イザナギ=イザナミ法》である。
しかし時代が下ると、未知と既知の危険が渦巻く辺境では統制のタガが緩み、なし崩し的に宙邦群が出現するのまでは否定する事が出来なくなった。
中には独自の通貨や機動部隊を持ち、十億〜数百億の星民を従える大国まで現れたのだ。