昨夜
議員宅
「自分の足を汚さないと依頼が完了しないなんてな」
人の足が人の顔にめり込むというのはなかなか気持ち悪い光景であった。見方によっては顔から足が生えている様にも見えてしまい、リクトはつい目を背けた。
「おい・・・テメェ」
「ハッハッハ、予想外だろう？普通の人間はこんな事しないぜ」
あまりの出来事に動く事を忘れたゲルドにダラードは話し掛けるが、それに対する応答すら出来ない状況である。目を背けているリクトにいたってはすでに銃口が地面を向いている。
血生臭い部屋で殺人者の笑い声が響く。
「ハッハ、もしかして独壇場ってやつ？ハッハッハハハ、おいおい、情けねぇ面してやがる」
挑発的な言葉だが、二人の反応は薄く、せいぜいリクトが目を開いた事ぐらいだ。
「お〜い、反応ぐらいはできんだろ？」
捕まる身なのだからこの隙に逃げればよいものを、あえてダラードは動かず、議員たちにしたのと同じ質問をした。
「あのよ、警備員さん、紅い腕ででかい傷負ってる男って知ってるか？」
その言葉が鼓膜に響くと同時に、ゲルドはようやく現実に戻ってきた。
「しっ、知るか、そんなことはどうでもいい」
若干取り乱している物の覇気は十分あり、リクトはその声で完全に戻ってきたようで、銃口をきちんとダラードに向け直す。
「そうか・・・知らないか・・・」
「ああ、知らん。知っていても教える気になれんな」
笑い声が止み、静かになり、嫌でも緊張感が高まり始め、少しずつ二人は何か動きがないかといつでも動けるように身構えた。
だが
「はぁ・・・じゃあいいや」
そんな二人を無視してダラードは一言漏らす。
「降参します」
あまりにも気の抜けた声色で、あまりにも唐突な事件の解決に、二人は数秒固まってしまった。
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