「本当にいっちゃうの…?」
それは小さい時の記憶
俺がまだ十歳の時の記憶
「うん」
俺と同じくらいの彼女は言った。
だけど彼女の顔どんどん曇っていく、それは俺が今にも泣いてしまいそうな表情だったから
「もう、アギトは泣き虫だね」
彼女は、そう言って俺より小さい体で頭に手を伸ばしてきた。
「アギト、大丈夫だよ。私は大丈夫、必ずアギトが居るこの街に帰ってくるよ」
彼女は右手で俺の頭を不器用だけど、とても優しく撫でてくれた。
いつもの俺なら恥ずかしくて彼女の手を振り落としていたかもしれなかった。
だけど、その時俺は
「うん、ぜったい!ぜったいに!帰ってきてね!」
と、叫ぶように言っていた。
「うん!絶対に帰ってくる!だから、まっててね!」
彼女はそういうと俺の頭から。
小さくて温かかった手を離していく。
もう二度と彼女が帰ってこないと思うと
すっごく悲しかった
彼女は、“帰ってくる”と言ってくれた。
だけど、俺は分かっていた。
分かっていたのに彼女に“帰って来て”と言ってしまった。
彼女は、もう帰って来ないことを…知っていたはずなのに、
俺は
「いってらっしゃい!」
と言った
この時の俺には精一杯の笑顔だったと思う。
「うん!いってくるよ!元気でね!アギト」
彼女は、両親が待っている馬車に向かって走っていった。
彼女は行ってしまった。遠い遠い街に彼女は、行ってしまった