猫物語その3(改)

α  2009-05-19投稿
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 わたくしが竹の節にはまり込んでいた訳は、こうした次第にございます。
 どこのどなたかは存じませんが危ういところを救っていただき ありがとうございました。

 と、子猫はニクキユもまだ柔らかい小さな可愛らしい丸い滑らかな毛並みの前足をあずまやの床に着いて、竹内さんに深々と頭を下げるのでした。

 いいえ礼には及びませんよ。と、竹内さんは答えます。

 委細は承知しました。あなたもさぞお辛かったでしょう。うちはご覧の通り 老人一人で寂しい暮らしをしています。もしあなたさえ構わなければ ここにいつまででも お留まり下さって結構ですよ。

 と、内心猫が好きで好きで大好きで、ぜひとも子猫と一緒に暮らしたい竹内さんはそのように申したのでしたが

 いいえ、滅相もございません。
 見ず知らずの方の親切に甘えて ご迷惑をかける訳にはまいりません。
 頼りないこの身ゆえ何のご恩返しも ままなりませんが どうか平にご容赦下さいませ。

 と子猫は答え再び 柔らかなニクキユを床に着き、可愛らしく丸い滑らかな毛並みの前足を美しく揃えて深々と頭を下げるのでしたが、か細く身を震わせて顔をあげようとは致しませんでした。

 必死で大人らしく振る舞ってはいても小さく柔らかなその身は不安と懸念で張り裂けそうです。小さな生き物は誰かがきちんと世話をしてあげなければ育つことが難しいのですから、その子猫には愛情を注ぐ者が必要でした。

 竹内さんは少し考え申します。

 はてさて、このような山の中で老人一人きりでは不便が多い。鼠に食物を荒らされ難儀なものだ。
 誰か鼠を退治してくれる者が おればとても助かるのだがのぅ。

 子猫の美しい二等辺三角形の耳が竹内さんの言葉を捉えピクリと動きます。
 子猫が恐る恐る顔をあげると笑顔の竹内さんが

 どうでしょう、鼠を捕るために留まってはいただけないでしょうか。と頼みます。

 はい、できる限りのことをさせて下さい。
 と子猫は一も二もなく答え竹内さんに感謝するのでした。
 猫に手伝える人間の仕事は そう多くはありません。けれど竹内さんは子猫が居たら助かると言ってくれたのです。
 そして竹内さんも ひそかに小さく拳を握り喜びをかみしめ心の中で叫びます。

 NO CAT is NO LIFE!



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