子猫の鋭い一喝に身震いし羽をばたつかせた母雀は、これ以上この若い捕食者の機嫌を損ねてはならぬと急いでさえずり自分の伴侶を呼び立てたのでした。
短毛種の猫の毛の長さほどの間を措かず現れたのは母雀と変わらぬ大きさの中年雀です。
父上...
子猫からすると大した違いは見当たりませんが、雀族の間では互いに見分けがつくのでしょう。
子雀は意気消沈して涙ぐみ、自分の父を恐る恐るうかがうように見上げます。
僕が猫に捕われたばかりに、このような心配を おかけすることになってしまい申し訳ございません、父上。
どのように お詫び申し上げればよいのか皆目見当も及びません。
本心悔いている様子で子雀は嘴を食いしばり謝罪します。
言うな、我が子よ。食う者食われる者、相交わって棲んでいるのだ。このようなことは常に覚悟しておかねばならぬ。
しかし、まだ助かる見込みが完全に消えぬ間は我々は生きねばならん。我々の生死は御仏だけが決められるのだから。
どうやらこの雀一家は仏を信奉しているようでした。
お若い方、きけば何やら変わった笛吹を お探しだとか。
今一番上の子を探させにやっています。独り立ちしてから日は浅いですが、しっかりした考えを持っていて、あなたが今命を握っている者の兄に当たる家族思いの良い子です。すぐに お望みの情報を持って参ることでしょう。
雀ながら威風堂々たる父雀の様相に、子猫は意気を呑まれながらも、ひそかに心の内で一家を率いる者の大儀はかくあらんやと感嘆したのでありました。
どうか重ねてお願い申し上げます。笛吹の居所が判明致しましたらば、必ず我が子を助けてやって下さいまし。
もし お約束をお守りいただけないのなら、その子よりもまず私をお食らい下さいませ。
と、母雀が生きた心地もしてないように歎き願うのをきいた子猫は不機嫌そうに答えます。
子の食われるさまを見たくにゃいのは解からぬでもにゃいが、私も自分で為した約束を卑怯にも覆したりはせぬ。
みくびられては心外にゃ。
いえ決して猫さんのお言葉を疑ったのではございません。どうかお気を悪くなさらないで下さいませ!
子猫と雀達との間の緊張がにわかに高まったとき、軽快な羽音が日の光浅い竹林にこだましたのです。