「なんだよ、ダニエル」
フェンリは男に向かって言った。男−−ダニエルは、冷めた表情で、目線だけこちらに向けた。
「アリスの事は諦めろ。リヒネを襲うなんて無謀過ぎる」
「見捨てるっていうのか」
「そうだ。アリスに限かったことじゃない。勝算の少ない賭をしてまで仲間をいたわる余裕は俺達にはない」
「アリスを見捨てるなんてできないよ!」
フェンリは憤って机を叩いた。
「だが」
ダニエルは続けた。
「我々は仲間を縛らない。おまえ達が無謀にも行くというなら止めない。組織としては干渉せんがな」
「………」
フェンリは下を向き、しばらく考えてから、きっと私を見た。
「行こう、アリス」
フェンリはそう言って、私の答えを待たずに部屋を後にした。私は彼の背中を追って、部屋を出た。
「フェンリ。どうするんだ」
私は尋ねた。
「決まってる。リヒネに行く」
「危険だ」
私は少し強く言った。
「わかってる。……でも…、でも、アリスは俺にとって、家族も同然なんだ。大事なんだよ。放っておけない。わかってるよ、危険なのは。アッシェンだって、ダニエルと同じ意見なんだろ。いいよ、俺は。ばかだっていわれたって、一人でも行く」
「誰が一人で行かせるっていったよ」
私はフェンリの肩に手を置いた。
「一人で行かせられる訳無いだろ」
フェンリは、目を見開いて私を見た。
「…へへっ」
はにかんだような表情を見せるのが照れ臭かったのか、フェンリは私に背を向けて、にっとわらって、
「よし、いくか!」
と、わたしの腕を取って、駆け出した。