街道に ばまらまかれた魚が 食い尽くされたのは日の傾き始めた頃のことです。
木々の陰が色濃く重なり地に落ちる中、静けさが辺りを包んでおりました。
音もなく歩を進める者があり、交わす言葉のひとつもないのを かんがみると独りきりであるようでした。
迷いのない歩みが ふと止まります。
怪我をして おいでか?
問う声に応える者は おりません。しかし問うた者は言葉を続けます。
このような所にいるのを見れば おおかた察しはつく。南へ しばし行けば ささやかながら川がある。元の棲み処とは違うだろうが、水のないより ましであろう。
それでも返答のないまま虚しい静寂が続きます。
ここへ来るまでに抜け殻を いくつか見たが、皆その方のものか?まだ僅かだが殻に傷痕が見えておる。
やはり答えはないものの、指摘に息を呑む気配が伝わってきます。
ずいぶんと早い周期で脱皮を繰り返して おられるようだが、もしや蛙の煎餅など食したのでは あるまいか?
この段になり ようやく相手の言葉が発せられたのでした。
蛙の煎餅だとは そなた世迷い事を申す...。
水に棲む者は 皆そう答える。
問う者は少し笑ったようでした。しかし次に発せられた言葉には深刻なかげりが宿っていたのです。
実は手前の主の奥方が病に臥せって おられるのだ。
蛙の煎餅が もし真ならば、どこで手に入れたかだけでも教えてはくれぬか?
それで命をつないだ者の側に おるのなら種族が異なっていようとも、手前の心持ちは察して いただけよう。
揺らめくような長い沈黙のあと、問われた者は答えます。
さるお方によって救われたのは事実である...。しかし そのお方がどなたかは申せぬ。誰が何をしでかすか皆目解らぬ当世じゃ。厄介事を蒔くような真似をしては恩を仇でかえすようなもの。
では その方が どちらへ向かったかだけでも教えてくれ。
見つけても決して傷つけたりはせぬ。
...詳しいことは存じぬが町へご用があると申されていた。しかしもう お帰りになったやも...。
有り難い。約束は必ず守ろう。達者なれ、さらば。
そう言い残し問う者は去って行ったのでした。