うだるような夏の暑さより鼓動の早さのほうが半端じゃない。
自分のことじゃないのに…桜が伝えたい想いを届けたくて…
私達三人はお昼を学食ですまし、いざ樋口君の家に
向かった。
樋口君は地元では有名な格式のある剣道一家。
近くまでくると道場の中から掛け声が響いてくる。
桜の顔がこわばっていくのを感じた。
横にいても緊張が伝わってくる。
「あの…何かご用ですか?」
着物姿の優しそうな女性に声をかけられた。
「初めてまして、平井と申します。樋口君と同じクラスで…」
桜が一生懸命に答えているとその人は笑顔で
「総のお友達ですね、良かったらこちらに…どうぞ」
その人の後をついていくと居間に通され冷たい緑茶と羊羮を出してくれた。
「外は暑かったでしょうから遠慮なさらずに」
その物腰の優しさがどことなく樋口君に似ていた。
「ありがとうございます」
私達はお言葉に甘えて頂いた。
すると廊下を走ってくる音がした。
ガチャっ
扉を開けたのは胴着姿の樋口君によく似た子だった。
「司、ご挨拶してからお兄ちゃんを呼んできて」
司君は、はにかみながら
「こんにちは」
と頭を下げ走っていった。