「リヒネは、この沿岸都市レキンザから、南東に進んだ先にある。途中、ベラ湿原を越え、更にノースリヒネ渓谷を越えなければならない。…短く見積もって二週間はかかるぞ」
「わかってる。心配するな、ダニエル。私がついてる。フェンリも、アリスも、必ず無事に連れて帰る」
「すまない…アッシェン。気付いているだろう、私は本心ではおまえが行くというのを待っていた」
ダニエルは唇を噛んだ。
「…いいよ、別に」
私はダニエルに笑いかけた。
「せめてこれを」
ダニエルは、白い石を差し出した。
「魔法石だな!」
フェンリが横から会話に入った。
「そうだ。この石には、ワープの魔法思念が込められている。なにかあったら使え」
「わかった!」
フェンリは手を挙げた。
「ではいってくるよ」
「アッシェン、頼むぞ」
「うん」
「いってくるよ、ダニエル!」
私とフェンリはダニエルに背を向け、歩き出した。
「ふ…うまく利用されてくれ、漆黒の悪魔よ。騙し続けろ、…フェンリ」
ダニエルは誰にも聞こえないような小さな声で呟き、二人を見送った。