タクトは不審に思った。
なぜ、こんな危険な場所にダイヤはパールを置いてきたんだろう?
化け物からの警戒の為、背中合わせになっているダイヤに聞いてみた。
「パールはどこにいるだい?そもそもパールの体に乗り移っている理由は?」
「あたしには体が無いの。だから、時々迷い込んでくる旅人の体を奪って遊んでいるだけ。はっきり言うと、体なんて無くても生きていけるんだけど、それじゃあ、楽しくない。それに、あたしが他人の体を奪えるのは、鏡の宮殿の中だけだからパールをここに運んできた」
「化け物に襲われる危険を侵してまで?」
「来た!」
ダイヤはタクトの話を遮るように左の天井を指さした。
「こっちに来て!」
ダイヤは右側の扉に向かって走り出した。
扉は左右にあり、ウェドの身長の三倍はあった。
ダイヤは扉を開けると先に三人を入れ、扉を閉めた。四人は扉に向き直った。
「とりあえず今はあの化け物だけに集中して!」
ダイヤはタクトに言い聞かせた。
確かに何よりもまず第一にあの化け物をどうにかしたほうがよさそうだ。
「パリン!」
目の前で扉が破られた。
その化け物の体はなんと、鏡で成されていた。
「鏡だ!体が鏡だなんて」
宮殿は全て鏡でできていて、敵の姿まで鏡、タクトは頭がおかしくなりそうだった。おかげで敵の大きさから何まで殆んど分からない。
「こんなの戦えない!」
「・・・そう。あなたたちはこの『スペード』に勝つどころか、戦うことすらできない・・・あはははは!」
ダイヤの顔は悪に染まっているかのように歪んでいた。
「・・・ダイヤ?」
ダイヤは初めて会った時のように笑い転げていた。
「あたしは鏡に写った鏡の中の人間にだけ乗り移ることができる。あたしとこのスペードは鏡の中の住人でクレイラの住人じゃない。クレイラの住人はあたしたちにとって邪魔だった。鏡から生まれた訳でもないのに鏡の力を持ってて、だから、あたしたちはクレイラの住人を全部殺しちゃったの」
ダイヤはスペードの頭を撫でながら軽い口調で語った。
「あたしたちは鏡の中でしか行動できない。だから、クレイラ全体を写す鏡を作って、あたしたちは一気にクレイラの住人を鏡の中で殺していった。楽しかったな〜」
「つまりその体はパールの体ではなく、パールの鏡に写った体か」
「その通り」