花音は底無しに優しい。
美しく、気高く、凛々しい。
だけど夜になれば僕の身体を夢中で貪る。
降り注ぐ花弁のように、無数の唇が降り注ぐ。
「花音、ちょっと」
その言葉に、澄んだ蒼い瞳が僕の瞳を支配する。
「どうした?」
身体の関係は一ヶ月程前からだ。
だけど、快楽を貪る程、罪の意識に苛まれて、切なくなってゆくのだ。
「身体の関係が嫌?」
花音は身体を離す。鍛えられた細身の身体は、しなやかな豹のようだ。
男の自分が嫉妬したくなる程のいい肉体美。
見惚れていると、花音が血色にその瞳を変化させる。
僕は焦って逃れようとしたが、力ずくで寝台に押し伏せられる。
花音は本気だった。彼らにとって、肉体の快楽よりも尊い儀式。血の契約。
「時雨」
首筋に息が掛かると、時雨は顔を赤らめた。
思わず甘い声が漏れる。
花音はゆっくりと首筋に唇を寄せる。
「大丈夫。怖がらないで。私のすべてを見せてあげる」
薄く開いた唇から鋭い牙が覗く。
その牙は、無情にも深く時雨の首筋から血管に突き立てられる。
血管に牙が到達した瞬間、凄まじい快楽の絶頂が時雨の身体を襲う。
牙を立てた花音も快感の中にあるようで、時雨をきつく抱き寄せてくる。
(愛してる)
時雨の中に、花音の感情が流れ込んでくる。
狂おしい程に愛していた。
決して相入れないであろう二人の愛が。
戒音です。読んで下さった方、本当に感謝です。評価して下さると嬉しいです。