「俺達が1位か。楽勝だったな…。でも何て言うか…。久し振りに何かスカッとしたな。ドキドキの後でワクワクって…」シーマのステアリングを握るマサヒロが言った。
「うん。そうそう!乱闘が始まった時、どうしようかと思ったもん。キムラ君の言う通り、外に出ないで良かったね」ツヨシが弾んだ声で言った。
「ああ…。俺もスカッとしたぜ。あの騒ぎは、明らかに誰かが仕掛けた感じがするな…。まともにやりあうと馬鹿を見る」タクヤが言った。
「そうか?自然発生じゃねぇの?何か不気味な峠だったし…」マサヒロが呟く。
「うん。あの途中のトンネルとか嫌な感じがしたよね」ツヨシも同意する。
もちろんこの国民的アイドルの三人は、スタート地点のI峠が全国でも有名な心霊スポットだという事など知らない。
彼ら程の一流ともなると、そういった雰囲気は肌で感じとる事ができるのだ。
<気の使い手>がここにもいた。
「まぁ、このままぶっちぎりで、優勝だべ!」マサヒロが独特の訛りで言った。
「そう上手く行けば良いんだけどな…。それだと張り合いがねぇって言うか…。でも…まぁレースってこんなにドキドキするもんなのか…。誰かと張り合うなんて、久し振りだと思わないか?アイツはずっとこんな事やってんのか…スゲェな」タクヤが言った。
「森クンの事?」ツヨシが後部座席から身を乗り出して訊いた。
「…うん。スゲェな…」
「ああ…スゲェ…」タクヤとマサヒロが感慨深げに言った。
三人のスーパーアイドルを乗せたシーマは交差点で信号停車した。
タクヤは強い視線を感じて対向車線の車を見た。交差点は明るく、対向車はヘッドライトを消していた。助手席に女が乗っている。
強い視線はドライバーの男からのものだった。普通ならまず気が付かない。神経の昂ったスーパーアイドルのタクヤだからこそ気が付いたのだ。
彼は超一流なのだ。
「あの野郎…。ずっとこっち見てやがる…」タクヤが呟く。
「ん?何か言ったか?」マサヒロは車を進めた。
タクヤは対向車のドライバーと一瞬だけ目が合った。
石川遼一との火花が出るほどの熱い視線のやり取りだった。
「あの車…。ひょっとして参加者か…。一筋縄じゃいかねぇな…。そうこなくちゃな…。面白くなってきやがったぜ」
彫刻のように美しいタクヤの顔が獰猛な笑みを浮かべた。