子供のセカイ。18

アンヌ  2009-05-24投稿
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「う…、」
目が覚めると、すぐに浮遊感が襲ってきた。
そこは地面ではなかった。ガケの際、もろい枯れた木々の根が絡まりあった所に、美香は丸まって倒れていた。
痛みが全身を支配していて、体がまったく動かなかった。気温はぐんと低くなっていた。闇がずいぶん濃くなっている。どのくらい気を失っていたのだろう。
ミシ、と根が音を立て、美香は思わずぞっとした。目だけ動かして眼下を見下ろすと、十メートルほど下にまた枯れ木の森が広がっている。鋭い枝を宙に張り巡らせて。――落ちたら死ぬ。美香は必死で体を起こそうとしたが、指先がぴくりと動いただけだった。
「……れ、か、」
恐怖に突き動かされるまま、美香は声を発した。口の端を切ったのか、しゃべると痛みが走った。だが、言わずにはいられなかった。
「だ、れか…助、け、て……!」
蚊の鳴くような声で。美香は初めて本気で『助け』を求めた。
その時。
さあっと白い光が地面のある方角から広がってきて、美香の半身を照らし出した。
美香は横目でそれを見、驚きに目を見開いた。地面の方角の空、空と言っても、枯れ木のてっぺんからわずか一メートルほど上空を、ふわふわと漂ってやって来たそれは――。
月、だった。
「…あ、……!」
『月に向かって助けを乞えば、必ず助けがおりてくる。』
そして、確かに助けは来た。
月の表面にぽわり、と浮かび上がったのは、とても美しい人の顔――。
「僕を、呼んだかな?」
みるみる形をなしていったそれは、やがて美香より少し年上に見える少年の形に整った。
輝くブロンドの髪は肩の所で波打ち、金色の瞳は同じく金色の長いまつ毛で縁取られている。衣装はどう見ても外国の王子様が着るそれで、青と白を基調とした素晴らしく豪華なものだった。
美香がポカンと口を開けていると、サッカーボールくらいの大きさの月の横にふわりと並び立った王子は、面白そうな笑みを浮かべて美香を見下ろした。
「君はなんでそんなところに挟まってるの?狭いところが好きなのかい?」
美香は慌てて叫んだ。
「違っ…!たすっ……助けて……!!」
「うん、ごめん。もちろんそうだよね。」
次の瞬間、王子が月の側を離れてさあっと美香の元へ舞い降りた。美香は温かな白い光に包まれ、スゥッと気持ちが楽になっていくのがわかった。

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