1-2 出哀
日は沈んだ。
月明かり無しでは先が見えない程,辺りは闇に包まれている。
人斬りの噂のせいで,
出歩く者の姿は殆ど見当たらない。
『松葉宗蔵殿とお見受けする。』
抄司郎は,抜刀し,
夜道を歩く男を呼び止めた。
男は酒に酔っているらしく足元がおぼつかない。
『な,何でェ貴様は!?
物騒な物持ちやがって。俺に一体何の用だ!!』
抜刀している抄司郎を見て怯えたように男は言った。
『松葉で,間違いないのだな。』
抄司郎は男の脇に入り込んだかと思うと男を一刀両断にした。
あまりの素早さに返り血も浴びない。男は即死。
悲鳴をあげさせる隙もなかった。
『―‥94。』
抄司郎は刀を収めながら呟いた。
この男は抄司郎が斬った94人目の死者である。
『いやぁご苦労。ご苦労。実に見事だった。』
金回りの良さそうな中年の男が,木の陰から顔を覗かせた。
『武部殿‥。見て居られたのですか。』
抄司郎はこの武部と言う男に,14の時から雇われている。
『うむ。お前に金を払うのを忘れていた事を思い出してな。』
そう言うと武部は懐から金を取り出した。
『ほれ,今日の仕事料。
なぁに,遠慮する事はない。これだけ良く働いてくれるのはお前だけなんだから。』
『―いえ,俺は‥。』
抄司郎が受け取るのを拒んでいると,
武部は強引に抄司郎に金を握らせた。
『それで,次の仕事なのだが‥。』
武部は小声で言った。
『大海屋の京右衛門を知っているな?そいつを,ひと月以内に斬って欲しい。勿論,それ相応の礼はするぞ。』
『大海屋の京右衛門‥ですね。承知しました。』
『ああ,頼りにしているぞ。人斬り抄司郎。』
武部はそう言い残すと,
闇の中へさっさと消えて行った。
≠≠続く≠≠