「おーい!市民プールへ行こうぜ」
田舎の高校生にありがちな、真夏の放課後を僕は迎えていた。
プールに向かおうと、自転車にまたがると…
「今日、一緒に帰れない?」 と、付き合い始めて間もない彼女が駆け寄ってきた。
「俺、みんなと一緒にプールに行くから…」と、俯きぎみに 男の友情を優先するかの様に言った。
彼女は、
「そうなんだぁ…
じゃあ、先に帰るね。」
と、普段と変わらず僕らと反対方向へ歩き始めた。
僕は、プールへ向かう道中、彼女の事が気にかかって仕方なかった。
…いつもと違う…
とも思えた。
目的地に着くなり、一番の親友が、
「行ってやれよ!話したい事でもあったんじゃねん?」 その言葉と同時に、僕は自転車のペダルを思い切り蹴っていた。
結構 離れてしまったであろう彼女を目指し、吹き出る汗も気にせずに、 僕は自転車をこいだ。
田んぼの中の長い一本道の先に、ゆっくりと歩く彼女に追いつく僕…
彼女は、汗だくの僕を見上げて、涙を拭っていたであろうハンカチを僕の額にあてた。
西日で長く伸びたニつの影が、やがて一つになり一本道に移し出される。
一週間後、彼女は入院し、半年後、遠い世界へ逝ってしまった。
もう追いつけない、
あの一本道を歩いて…