奈央と出会えたから。<364>

麻呂  2009-05-27投稿
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『あたしは別にかまいません。

父に言うなら言えばいい。

渋川先生。

あたしは――』



沈黙を破り、ユカが渋川に向かって、



ゆっくりと口を開いた。



『なっ、なんだね?!秋田谷?!

今度は私を殴ろうって気か?!』



少しビビり口調の渋川が、ユカに聞き返す。



『あたしは、渋川先生の様な、腐った大人にだけは、なりたくないですから。』


きっぱりと言い切った、凛としたその目は、まっすぐ前を向いていた。



ユカに言われた言葉が、



渋川にとっては、かなりショックだったのか、



なかなか言い返す言葉さえ見つからずに、イライラしている様子で、



少しの間を置き、突然開いた口からは、


珍しくも、迫力のある、怒鳴り声が飛んで来た。



『お前ら、クソガキにっっ‥‥おっ、大人の大変さが分かってたまるかっっ!!』



保健室中に響き渡った怒鳴り声は、



たぶん、廊下を突き抜けて、



どこかの教室にも、届いていただろうな。



『渋川先生?!

ここは保健室ですよ?!』



さっきから、黙って聞いていた篠原先生が、



動揺して、感情的に怒鳴った渋川に向かって言った。



『‥‥ま、本日は不在である教頭が戻り次第、

行われるであろう校長との話し合いで、北岡の処分が決定すると思われるが、

覚悟しておけよ?!‥‥北岡‥‥‥。』


渋川は、銀縁の眼鏡のズレを手で直しながら、



その眼鏡ごしに見える細い目を、さらに細めて、



チラリと聖人の方を見た。



『ヘッ‥‥あぁ、どうにでもしてくれ。
俺は逃げも隠れもしねーよッッ。』



そんな渋川の言葉に動じる聖人じゃなかったから、



思ったとおりの強気な言葉を返した。



そして、



保健室を出て行こうと、ドアに手を掛けた渋川が、こちらを振り返り、



最後に、こう言ったんだ。



『秋田谷。お前の父さんに同情するよ。
まさか、自分の娘に出世の邪魔をされるとはな。

ハッハッハッハ―――』



ガラッッ―ー‐



バタンッッ―ー‐



渋川の高笑いは、



勢いよく閉められたドア越しに、



高々と響いていた。



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