村井は焦っていた。
まだ、さつきへのプレゼントを買ってない。
最近、忙しさに、かこつけて、
さつきを蔑ろにしていることを、
村井自身もわかっているし、さつきにもいつも言われている。
今日はさつきの誕生日。
「仕事で会えないなら、とっておきのプレゼントを頂戴。」
さつきは歳の割に大人だ。
今年、現役新卒の社会人とは思えないくらい落ち着いている。
ここが12歳離れた村井の心にゆとりをくれる。
逆に言えば村井をなーなーにしてしまうのだけど。
村井はやっとプレゼントを買った。
といっても夜11時半。
素敵なプレゼントなどあるはずがない。
さつきの好きなスナック菓子とビールを買って、猛ダッシュ。
久しぶりに走った。
体力は落ちてるもんだと変に納得する。
「ピンポン」
「はーい」
「俺、遅くなったけど、来てみたんですが。」
「今、何時だと思ってますか?」
「11時」
「11時?」
「11時55分です。」
「私の誕生日は後何分でしょうか?」
「5分です。」
「ふーん、で、プレゼントは?」
「さつきの好きなスナック菓子とビールだよー。」
「はー、そうですか。」
「ごめんな、遅くなって。」
「まー仕方ないけどさ。」
「・・・」
「ねー、揚げ出し豆腐作れるようになったんだけど。」
「はっ?」
「もしよかったら、お豆腐買ってきてよ、今から作るよ。」
「あー、でもさ。」
「それで帳消しにするよ、今年のプレゼントはお豆腐。」
「うーん、すまん。ありがとう、買ってくる。」
「待って、後2分、誕生日を祝って。」
ドアが開く。
久しぶりに見るさつきの顔は、やっぱいい女だよな、と思わせる。
2分後、村井はコンビニに走るだろう。
さつきの作った温かな揚げ出し豆腐を想像して。