揚げ出し豆腐

今井将磨  2009-05-27投稿
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村井は焦っていた。

まだ、さつきへのプレゼントを買ってない。

最近、忙しさに、かこつけて、

さつきを蔑ろにしていることを、

村井自身もわかっているし、さつきにもいつも言われている。

今日はさつきの誕生日。

「仕事で会えないなら、とっておきのプレゼントを頂戴。」

さつきは歳の割に大人だ。

今年、現役新卒の社会人とは思えないくらい落ち着いている。

ここが12歳離れた村井の心にゆとりをくれる。

逆に言えば村井をなーなーにしてしまうのだけど。

村井はやっとプレゼントを買った。

といっても夜11時半。

素敵なプレゼントなどあるはずがない。

さつきの好きなスナック菓子とビールを買って、猛ダッシュ。

久しぶりに走った。

体力は落ちてるもんだと変に納得する。

「ピンポン」

「はーい」

「俺、遅くなったけど、来てみたんですが。」

「今、何時だと思ってますか?」

「11時」

「11時?」

「11時55分です。」

「私の誕生日は後何分でしょうか?」

「5分です。」

「ふーん、で、プレゼントは?」

「さつきの好きなスナック菓子とビールだよー。」

「はー、そうですか。」

「ごめんな、遅くなって。」

「まー仕方ないけどさ。」

「・・・」

「ねー、揚げ出し豆腐作れるようになったんだけど。」

「はっ?」

「もしよかったら、お豆腐買ってきてよ、今から作るよ。」

「あー、でもさ。」

「それで帳消しにするよ、今年のプレゼントはお豆腐。」

「うーん、すまん。ありがとう、買ってくる。」

「待って、後2分、誕生日を祝って。」

ドアが開く。

久しぶりに見るさつきの顔は、やっぱいい女だよな、と思わせる。

2分後、村井はコンビニに走るだろう。

さつきの作った温かな揚げ出し豆腐を想像して。



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